牧野富太郎(1862年~1957年)は、「植物学の父」ともいわれる、日本を代表する植物学者です。
 博士は、江戸時代の終わりごろに土佐国(高知県)佐川に生まれました。生涯を植物学一筋に捧げ、たくさんの業績をあげました。
 全国各地を調査し、50万点もの標本を作製し、命名は2500種以上、自ら新種発見も600種以上と言われています。その研究成果は、博士自身が描いた細密な植物図と共に『牧野日本植物図鑑』にまとめられました。『牧野日本植物図鑑』は、現在でも日本の植物分類では最も権威のある本とされ、学生から専門家まで幅広い人に支持されています。
 牧野博士は、小学校中退でしたが、理学博士の学位を得て、亡くなられた後に文化勲章も受賞しました。博士の生まれた4月24日は「植物学の日」とされました。
 博士は学歴がなかったために、東京帝国大学の講師止まりで、出世することはありませんでした。また研究のためにたくさんの書物が必要なので常に貧乏生活を強いられましたが、そんなことは全く意に介しませんでした。
 
八幡とカキツバタ
 晩年は全国各地の大学に呼ばれて植物採集会を実施し、研究者や学生を指導しました。広島文理科大学(現在の広島大学)にもたびたび呼ばれています。八幡は、夏は涼しく冬は豪雪なので、珍しい動植物の宝庫です。その頃、広島理科大学の植物演習地が八幡村にありました。博士は、広島に来られたときは大学の先生方や学生たちと一緒にたびたび八幡を訪れておられます。
 八幡は村全体が湿地のために、カキツバタの生育条件に適していました。初夏になると自生のカキツバタが里一面に咲いていました。
 
 
昭和8年6月4日
 博士が何度目かに八幡を訪れた昭和8年6月4日のことです。その日は、梅雨の合間の日本晴れでした。博士は、おりしも満開に咲いていたカキツバタを見てその美しさに感激されます。
 カキツバタの語源は「搔(か)きつけ花」です。古代には、カキツバタの紫の花汁を爪の先で布に直接刷り込み色付けをして楽しんでいたといいます。
 『万葉集』にも「かきつばた  衣(きぬ)に摺(す)り付け  大夫(ますらお)の  着襲(きそ)ひ猟(かり)する 月は来にけり(大伴家持)」という歌があります。
 牧野博士は、目の前に広がるカキツバタの美しさに圧倒され、土手に座ったまま、最初はハンカチを取り出して紫の花汁を擦り付け、次には自ら着ていたワイシャツに直接擦り付け、前面を紫色に染めて子どものように喜ばれました。
 
 このときのことは、この日、博士と一緒に歩いていた八幡在住の児玉集さん※【写真①】も目撃しています。
 また、博士の書かれた『植物知識』という本の中にも、博士の日記にも書かれています。
 
 さらに、博士はいったん旅館にもどられると、すぐに硯(すずり)と紙を用意してもらい、その時に自分で詠まれた句「衣にすりし昔の里か燕子花」を書かれ、その当時の八幡小学校長だった河原正人先生に贈られました。その書※【写真②】は、平成26年に、特主である河原先生のご子息から北広島町へ寄贈されました。
 八幡地区では、このエピソードを、八幡の自然環境の保全に活かそうと、博士の出身地、高知県越知町(佐川町の隣)から土佐の青石を寄贈してもらい、博士の句碑を千町原(せんちょうばら)に建立しました。※【写真③】今では、全国各地から植物や自然を愛する人たちが句碑を訪れて来ます。
 
 牧野富太郎博士の雅号(がごう)は「結網(けつもう)」です。これは、中国の古い本にある「淵に臨みて魚を羨むは退きて網を結ぶに如かず」から来ています。意味は「岸辺に立って魚が欲しいとただ眺めていても魚は捕れない。そんなことより、家に帰って、例え時間がかかっても魚を捕る網を編むべきだ。」です。つまり、夢ばかり追うのではなく、目的達成のために具体的な努力をすべきであるという戒めです。これは植物研究一筋の一生を送られた博士自身の生き方を示しています。
文:金田道紀
 
 

『牧野博士自筆の書を展示』

博士自筆の書を常設展示中
期間:常設
場所:北広島町芸北文化ホール
住所=北広島町川小田10075-54

『展示コーナー新設』

博士の掛軸(複製)や関連した植物標本を常時展示中
場所:芸北高原の自然館
住所=北広島町東八幡原10119-1
10:00~15:00
定休日:火曜日

『カキツバタてぬぐい販売』

伝統的染め物でつくった
「カキツバタてぬぐい」販売開始!
▼販売場所▼
①道の駅舞ロードIC千代田(観光案内所)
②芸北 高原の自然館
③北広島町観光協会芸北支部(芸北支所内)
④オンラインストア

『トレッキング&スケッチイベント』

「霧ヶ谷湿原」が舞台!!
散策後に植物をスケッチ!
日時:10月23日(月)
集合場所:山麓庵(10時集合)
参加費:6,000円
※詳細はチラシをご覧ください。
八幡高原は広島県北西部に位置し、 臥竜山の麓に広がる標高約800mの盆地。
八幡湿原・聖湖・三ツ滝などさまざまな自然形態を有し 広島県内では珍しく、 冬の積雪深が1mを超えることもあります。
臥竜山に広がるブナ林や湿原に咲く季節の花々を愛でながら 自然の中で過ごす時間を楽しんでみませんか?
  
カキツバタの里
 5月下旬には約1.7haの旧耕田にカキツバタが咲き、一面紫の景色が広がる。6月上旬にはカキツバタを愛でるイベントを開催。
【住】北広島町東八幡原 LinkIcon
【問】080-6339-2136 (北広島町観光協会芸北支部)
※博士が愛したカキツバタ
 
臥竜山(がりゅうざん)
 標高1223.4mで北広島町最高峰。山腹から山頂にかけて樹齢200年以上のブナの原生林が広がる。車で上がれる8合目には名水・雪霊水が湧き出る。
【住】北広島町東八幡原 LinkIcon
【問】080-6339-2136 (北広島町観光協会芸北支部)
※臥竜山にて(左から三番目が牧野博士)
 
芸北 高原の自然館
 「自然の窓口」として、芸北地域に生息、生育する動植物を分かりやすく紹介。まずは八幡高原を散策される前に、楽しみ方を教えてもらおう。
敷地内にはお食事処「かりお茶屋」や茅葺きの古民家「山麓庵」がある。
【住】北広島町東八幡原10119-1 LinkIcon
【電】0826-36-2008
【休】火曜、11月26日~4月24日
【営】10:00~15:00
【問】冬季問い合わせ先:0826-35-0111
  (北広島町役場芸北支所)

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